夏の終わりが近づいているのでしょうか。朝晩、涼し気な風が吹く季節になりました。
ふと、井上陽水の代表曲『少年時代』が頭によぎりました。
♫ 夏がしゅぅぎぃ 風あざみぃ 誰のあきょがれに しゃまよぅ♫
「風あざみ」とか、なんて風流な言葉だろうと思っていたら、井上陽水の“造語”でした。
この世に存在しない言葉を、さも昔からあるかのように使いこなす歌手は、「アーティスト」やら「シンガーソングライター」と呼ばれるに相応しい。そう思います。
どうも、前置き長めのコピーライター兼ディレクター、AND SPACEの橋田です。
今回は、どこぞの誰にとっても身近な「住所」についてのお話をお届けしたいと思います。
皆さんは、今住んでいる自宅、勤めている会社、生まれ育った実家の「正しい住所」を知っていますか?
そして、正しい住所の書き方、縦書きと横書きの使い分け方、ちゃんとご存知ですか?
「ハイフン」ってやつを見慣れてしまった僕ら
自宅や会社に届く郵便物を思い出してみてください。
最近、目にする住所の番地表記は、ハイフン(−)という名の横棒が並んだ略式ばかりです。
ハガキや封筒の宛名はもちろん、Webサイト、名刺、ポスター、商品パッケージ。どれもこれも、ハイフン(−)を使った住所表記で溢れかえっています。
いたるところで見慣れてしまったハイフン(−)を、使い慣れてもしまっている私たち現代人は、さらに省略、省略の道を突き進みます。
大阪・京都・奈良・和歌山のように都道府県と市の名前が同じであれば、途中の「市」から始める始末。マンションやアパートの名前まで書いてたら面倒だと、「部屋番号」だけを数字で書く始末。しかも、ハイフン(−)をもういっちょ付け足して。
「省略」と「間違い」は別の話
なぜ、住所表記はこれほどまでに省かれ、略され、短くなってしまったのでしょうか?
合理化だ、効率化だ、省エネだ、時短だと言う時代の風潮が、日本全土に浸透しているからでしょうか?
それならそれで納得いきますが、多分、答えはもっと単純明快。
ハイフン(−)を使っても、いろんなものを省略しても、ちゃんと荷物や書類が届くからです。
そして、略式の住所は、省略しているだけで、決して“間違い”ではないからです。
「正式」な住所を知る方法
郵便物や宅配便を送ったり、お店や企業の会員登録をするなら、略式の住所表記さえ覚えておけば問題ありません。
しかし、婚姻届をはじめ、パスポートや運転免許証の申請、不動産手続きなどの公的書類を提出する際には、正式な住所の記入を求められます。
また、就職活動時の履歴書には、正式な住所を記載して、“ちゃんとしてる人”を印象づけることが大切です。
都道府県と市の名前がだぶっても両方書く、マンションやアパートの名前も横着せずに書く。これが基本です。
知っていて損はない正式な住所を知る方法は、市役所・町役場・区役所などで「住民票」を取得・確認することです。
印鑑証明書や戸籍謄本、戸籍の附票でも確認できますが、最も馴染みのある公的書類と言えば、今、住んでいる場所の住民票でしょう。
ちなみに、会社であれば、法人設立時の「登記簿謄本」を確認すれば分かります。
住所の書き方は地域によって“癖”がある
略式表記した住所の番地が「1-2-3」である場合、正式な表記は「1丁目2番地3号」が一般的ですが、地域によっては独特の“癖”があります。
いくつか例をあげると…
■ 数字の一部が漢字になっている…「一丁目2番地3号」
■ 番地の後に「の」が入る…「1丁目2番地の3」
■ マンション・アパート名が省かれている…「1丁目2番地3号405号室」
■ 部屋番号に続く「号」や「号室」がない…「1丁目2番地3号 コーポハシダ405」
この他にも、江戸時代からの名残で町域名の前に「字(あざ)」や「大字(おおあざ)」が入る場合、市町村合併によって住所が変わってしまった場合などは、特に注意が必要です。
「縦書き」の住所表記は“漢数字”
お次は、正式・略式を問わず、住所を書く際の注意点をおさらいします。
ハガキ、封筒、書類に記載する住所は、「縦書き」と「横書き」の2種類。ここで気をつけなければならないのは、数字の使い分けです。
株式会社AND SPACEの住所を例に、正しい書き方をご紹介します。
まずは、「縦書き」の書き方です。
【略式】 大阪府大阪市北区国分寺一ー七ー七
【正式】 大阪府大阪市北区国分寺一丁目七番地七号
縦書きの住所表記は、番地の数字を「漢数字」で書きます。
横書きのブログで、縦書きの表記はさすがに見づらい。という訳で、清書しました。
漢数字で書く番地表記のポイントは3つ。
■ 2桁以上の数字になる場合は、「十」や「百」の表記を省略します。
例えば番地の数が「172(わたしの身長)」なら、「一七二」となります。
■ 数字の「0」は「◯」を使います。
例えば番地の数が「108(煩悩の数)」なら、「一◯八」となります。
■ 番地の数字や部屋番号で厄介なのが「131」「231」「323」などです。
算用数字なら問題ありませんが、これが漢数字で縦並びになった途端、めちゃややこしい。
《131番地》 《231番地》 《323番地》
一 二 三
三 三 二
一 一 三
このように、漢字の「一」「二」「三」が並ぶ場合は、一角の長さや間隔を調整して、読み取りやすいように工夫しましょう。
「横書き」の住所表記は“算用数字”
続いて、「横書き」の書き方です。
【略式】 大阪府大阪市北区国分寺1-7-7
【正式】 大阪府大阪市北区国分寺1丁目7番地7号
横書きの場合は、番地の数字を「算用数字」で書きます。
せっかくなので、こちらも清書しました。
横書きは、漢字と数字の違いが明確。シンプルで読み取りやすいのが特徴です。
これ以上、もの申すことはございません!
正式・略式のスマートな使い分け方
住所に正式と略式があること、正式な住所の調べ方、縦書き・横書きそれぞれの書き方をご紹介してきました。
日常的に使う住所の表記は、ハイフン(−)のおかげで文字数も少なく済む「略式」のみで十分です。
実際に、日本郵便のホームページを覗くと、省略できる箇所や書き方をご丁寧に解説してくださるページが出てきます。「郵便番号さえ合ってたら、そんなに省略していいの!?」と驚くほど、手間がなくなる知恵を教えてくれます。
「正式な住所」も書けるように事前準備
そうなると、正式な住所はそこまで重要でなさそうに思えますが、そんなことはございません。
就職活動中の「履歴書」や「婚姻届」を提出する際など、人生のターニングポイントで記入する書類に、正式な住所の表記は欠かせません。
だから、いちいち調べなくても良いように、いつでも書ける準備を整えておくことは、決してムダではありません。
また、「履歴書」に正式な住所を書くことがマナーとなっている観点から、目上の人や重要な書類を送る際には、宛先に正式な住所を記入すると“スマート”です。
ほんの少しの気遣いで、相手に与える印象を変えることができるのなら、住所の正式・略式をケースに応じて使い分けられる、“気の利く社会人”になりたいものです。
デザイン上の住所表記は「伝わりやすい」を優先
広告デザインを手掛けるAND SPACEでは、日夜、幅広い分野の制作物を生み出しています。
グラフィックでも、Webサイトでも、クライアントの「住所」を記載する案件は山ほどありますが、デザイン制作において“使い分ける必要性はないのか?”を少しだけ考えてみます。
まず、ハイフン(−)を使った略式表記のいいところは、縦書き・横書きを問わず、見た目がスッキリしていて分かりやすいこと。
正式な住所表記が求められる公的文書や履歴書をデザインするなんてありませんから、基本的には、伝わりやすく、見栄えも良い「略式」でどんな案件も対応できます。
使用シーンを考慮して、上手な使い分けを
ただし、お固い業種や目上の人とのやりとりが大半を占めるお客様から、名刺や会社パンフレットの制作を依頼された場合。スッキリ見やすい「略式」か、きちんとした印象を与えられる「正式」か、住所の書き方を選んでもらう余地はあるかもしれません。
また、Webサイトの場合、ユーザーの目に留まることの多いヘッダーやフッターに記載する住所は「略式」とし、会社概要や企業案内などの詳細ページに記載する住所は「正式」を使うなどの工夫が考えられます。
今回ご紹介した、住所の使い分け方や正しい書き方は、「お葬式には喪服に黒ネクタイ」「結婚式に動物の毛皮はNG」などと同じ“大人のマナー”のひとつです。
シーンに合わせて適切な判断ができるよう、正式な住所をご存じない方は是非一度、お調べになられることをおすすめします。
ポップに、シックに。お寺の印象を変える「封筒」デザイン
住所の書き方ひとつで、相手に与える印象を変えることができると話してきました。
そして、もうひとつ。住所を書く「封筒」のデザインを変えるだけで、受取人に与える印象が大きく変わることもあります。
&_ TEMPLE DIVISION(お寺事業部)では、まだまだ敷居の高い印象が拭えないお寺、幅広い年代への認知を目標とするお寺、檀家さんの世代交代を課題としているお寺のために、普段お使いの「封筒」などの寺務ツールを、親しみやすいデザインにリニューアルしています。
デザインのヒントは山号・院号・寺号に潜んでいる…
普段、お寺の名前は「◯◯寺」「◯◯院」と呼ばれますが、どのお寺にも必ず“正式名称”があります。
山号・院号・寺号の順番で、「◯◯山 ◯◯院 ◯◯寺」がお寺のフルネーム。その中の「◯◯院」や「◯◯寺」が普段の呼び名になっているという仕組みです。
お寺の封筒や名刺などのツール類を制作する際には、この山号・院号・寺号に使われている漢字が、デザインのイメージを膨らませる大きなヒントになることがあります。
今回紹介する2つの封筒は、まさにその典型的な例です。
兵庫県西宮市の西蓮寺様(金泥山 寶珠院 西蓮寺)は、寺号の「蓮」をモチーフにしたロゴを2箇所に配置。封筒のベースカラーは、特徴的な鉄筋コンクリート製の本堂の色にほど近い「グレー」を採用しました。寺院の外観を想起させるシックでモダンなイメージが、檀家さんからも好評です。
奈良県天理市の迎乗寺様(白雲山 紫光院 迎乗寺)は、ご住職お気に入りの「クリーム系」をベースカラーに選びました。インパクトのある英字表記と電話番号・FAX番号でスタイリッシュさを出しながらも、山号の「白雲」を上下に浮かべてポップな仕上がりに。いつもと違う真新しいデザインの封筒が、檀家さんとの話の種になっているそうです。
最後は結局、お寺の話。
秋のお彼岸が、今年もやってきました。そうです。「おはぎ」の季節です。
橋田
この記事を書いた人作務衣を身にまとい、“センス”を持ち歩く、京都出身の癖ある渋男。寺社仏閣専門紙の記者(おてライター)として働くこと10年の経験を活かした、多彩な「言葉遊び」と「韻を踏みがち」なライティングで、テンポの良い文章を奏でる。生きた動物は苦手なのに、アニマル柄好きという風変わりな趣味でデスクは散らかり気味だが、原稿と案件はちゃんと整理整頓できるのでご安心を。社内では、話が長いで有名なお爺系ムードメーカー。仕事のスタイルは、そんな人柄がにじみ出る「義理と人情」で打席に立つスイッチヒッター。